好日山荘 ガイドコラム

好日山荘契約ガイドによる山のコラム

下りはゆっくりと

f:id:asahiryuta:20160917151844j:plain先週はツアー登山のガイドで北穂高と奥穂高にそれぞれ別の日、別パーティーで行ってきました。

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報道等で知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、9月に入って早くも3件もの死亡事故がザイテングラードで起こっているようです。私達が北穂高岳に向かう日には北穂高岳で滑落事故(死亡)、穂高岳山荘からザイテングラードへ下山する日には滑落(怪我)と行動中に事故救助の現場に遭遇してしまいました。

これらの事故は全て下りで起こっているようです。

事故がよく起こる場所でありますから、それを防ぐ為に遭対協、近隣の山小屋の方々により安全の為の最低限の鎖やロープがかけられ、ルートを見失わない為に最低限のマークもあります。個人的な見解では数年前に比べよく整備されたという印象があります。

しかし、事故は起きてしまいます。私の主観かもしれませんが、一般的に”ここは怖い!危険だ!→落ちたら死ぬ、怪我をする”と誰もがリスクを認知しやすい場所では皆さん誰もが注意しますので事故は実は起こりにくく、リスクを認知しにくいが実は危ないという場所でよく事故は起こります。

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ザイテングラートは、ドイツ語で「支尾根」「側稜」を意味し、涸沢カール上部の標高約2600メートル付近から穂高連峰の尾根に延びる岩の尾根で奥穂高岳への一般的ルートです。岩場に慣れている登山者であればさほど難しい場所でなく、高度感もそれほど無い為、どこが危ないの?と思う方もいるかもしれませんが斜度があり岩がむき出し。滑落すれば、横は崖で尾根から転げ落ちますし、転べばそこは岩の上。また落石の可能性がある場所です。さらに多くの人が歩いていますので岩が研磨され滑りやすい岩も多々あり、特に下りはスリップしやすいので注意をして歩いています。またザイテングラードだけでなく、北穂の一般ルートである南稜も傾斜が強く転倒すれば止まらない注意が必要な場所です。

f:id:asahiryuta:20160917152139j:plain事故は場所だけでなく人間側の理由でも起きるものです。事故は50代後半〜60代のいずれも単独登山者等、理由は色々あるかもしれません。私がガイドしたツアーの参加者は50代であれば若い部類に入ります。

少人数の個人ガイドであればショートロープを行い安全を確保しながら歩く事が出来ますが、多人数となるツアー登山では全員に対してそのような事は出来ません。ツアー登山でのガイド時、下りの際に心がけている事は参加者を焦らせない事、登りと同じくらいゆっくりと歩く、段差を少なくして丁寧に優しく歩く事(ルートも気をつけます)危険箇所や滑りやすい場所は声かけて注意喚起(これは一般的な場所ではなく、私の主観)をパーティーに伝達する事です。指差喚呼によるヒューマンエラーを防止するのと同じです。あたり前の事かもしれませんが、とても大切な事です。

また、山中でも同じパーティーなのに、それぞれがそれぞれのペースで別々に歩いている方をよく見かけます。それ自体が悪い事ではないのですが、声をかけあって歩いた方がリスクハザードをお互いで確認、共有できますし、何より山の楽しみを共有できますよね。

過去の参考になるガイドブログ

井坂ガイドより〜今年の遭難事案の傾向 - 好日山荘 ガイドコラム

島田ガイドより〜穂高の岩稜 - 好日山荘 ガイドコラム

秋山シーズンは気温も下がり、身体の動きも鈍くなってきます。行動前にしっかりと身体を温めたり、休憩時に身体を冷さない様にレイヤリングに気をつけたりしなければなりません。日も短くなり、行動時間は制約を受けてきます。行動時間が短くなると焦りも生まれます。

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※9月12日の涸沢。このナナカマドだけ真っ赤になっていました。

またヘルメットは涸沢小屋か涸沢ヒュッテ、岳沢経由の際は岳沢小屋から上部の滑落や落石のある場所に入る前に着用するようにしています。道具や装備、技術など色々な要因もありますが、行動について下りの際に気をつけている事を書いてみました。主観的な内容があるかもしれませんが、事故が起きないように皆さん一人一人が気を付けて秋山を楽しめればと思います。私も今一度気を引き締めて山に行きたいと思います。