読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

好日山荘 ガイドコラム

好日山荘契約ガイドによる山のコラム

重ね着(レイヤード)の有用性

この夏、新聞やメディアでたくさん取り上げられた「熱中症」、様々な対策が紹介されました。
例えば、気温が高くなれば薄着になり、皮膚の血管を拡張させて熱を放散させようとします。また、汗が蒸発することで気化熱を奪い、体表面温度を下げようとします。

車でいうところのラジエターですから、循環する血流には十分な水分が供給できなければ体温が上がってしまいます。
効率よく体表面温度を下げる為には、タオルで汗を拭ったり、吸水速乾性衣料で比表面積を大きくします。蒸散させるには湿度が高い、例えば梅雨時は不利です。水分が蒸発しにくいですからね。

一昨年は北海道トムラウシ山の遭難を契機に「低体温症」が注目されました。平常体温からたったの2度程下がるだけで活動できなくなってしまうのです。一般的に気温が低くなると体温が奪われます。そうすると、体温が逃げにくくなるよう皮膚の血管は収縮して鳥肌が立ちます。さらに「ふるえ」が起き、熱を起こそうとします。

低体温.jpg

体温が奪われる感じを感じる場所に濡れた体に扇風機の風を当てる風呂の脱衣所があると思います。同様に、真夏であっても濡れた体に強風が吹きつければ「低体温症」になってしまうことを忘れてはいけません。

そのような時、私たちは乾いた服に着替え、断熱性が高い厚みのある服を重ね、防風性が高いものを着ます。暖かい飲み物を飲んで体内部を加温するのも有効です。

人は恒温動物なので、できる限り体温を一定に保とうとします。上に書いた様な人を取り巻く外部の環境が変化しても、体の状態を一定に保とうとする機能を恒常性といいます。
恒常性は体温だけではなく、ホルモンバランスも同様です。

砂漠や熱帯からヒマラヤ高地や北極圏まで人間が住むことができているのは、遺伝や小さい頃の環境の適応が大きいのです。しかし、私たちが仕事や旅行、山登りで活動するのに、帽子から靴まで体に身にまとう被服なくして考えることはできません。

さて、レイヤードのことを話す前に熱の出入りが多い体の部位を押さえておきましょう。

  1. 頭:毛髪で守られていますが、大切な脳があります。最も血液が集まる場所で、表面にもたくさんの毛細血管が張り巡らされています。頭を怪我するとたくさん血が出てびっくりしますね。
  2. 首:脈が測れるほど体表に近い所を太い動脈が通っています。
  3. 手首、脇の下、股の付け根:これらは脈が測れるほど体表に近い所を動脈が通っています。
  4. 内臓:寒い時は脂肪に守られた外側からよりも暖かい飲み物を飲むことが有効です。

熱い時は薄着になりますが、肌を直接太陽光線に曝すのは得策ではありません。帽子などで上に述べた部位が熱くなるのを防ぎます。頭に濡れタオルなどを巻いて冷やすのも良いでしょう。

寒い時は脈を測れる部位を保護し、ニット帽などで頭を守ります。体全体を乾いた肌着と断熱性の高い衣料で覆い体温低下を防がないといけません。体温が低下しだすと人間は恒常性を維持する為に、手足から血流を遮断しだして脳を守ろうとします。少し専門的にはなりますが、冷え切った手足を無理やり動かすことで冷たい血液が心臓や脳に入り込み急激に事態が悪化する場合があります。厳冬期に於いては手足が凍傷になり易い理由の一つです。

アウトドアスポーツにおけるレイヤードシステムで不適格な素材は「コットン(綿)やレーヨン(再生セルロース)」です。繊維自体に吸水性があると乾きにくいのです。

ベースレイヤー、ミドルレイヤー、サーマルレイヤー、シェルレイヤーと呼ばれ方はいくつかありますが、レイヤードシステムは次に述べるような状況に応じて服を脱いだり着たりすることなのです。

1:目的とする山の高さや季節(例えば、本州3000mと北海道2000mの気候を比べてみましょう)
2:高度変化による気温変化(100mで0.6度低下します)
3:地形の変化による気象変化(特に森林限界を超えると風増加、1m/秒増加で体感温度1度低下します)
4:天候の変化(前線や低気圧の通過後に気温の低下、強風・降雨・降雪になることもあります)
5:運動量に合わせた体温調節(無理なスピードでは心拍数が増大し、発汗が増えます)

これからの季節、体は寒さに慣れていないので、朝一番の歩き出しに厚着をしてしまいがちです。やや寒さを感じるくらいの薄着で歩き出すのが良いでしょう。発汗具合を観察して、衣服を調整します。グループ登山の場合、このような衣類の調整、強制水分補給は軽く見られがちです。

現在では「熱中症と低体温症」はマネージメントの失敗、つまり人災であるとの認識が広がっています。

山登りを快適に安全にするには、良い機能をもった商品の性能を引き出す知恵とそれを実行する小さな決断の積み重ねが必要なのです。

登山研修所友の会には役立つ情報がたくさんあります。

加藤ガイドのHPでは、キノコ、自然、花、地質、鉱物などを載せています。