好日山荘 ガイドコラム

好日山荘契約ガイドによる山のコラム

ハイマツとホシガラス・ライチョウ

 日本アルプスを歩いたことがある人でハイマツを見たことがない人はいないと思います。


 私はライチョウとハイマツがセットでイメージされています。5月の立山連峰では冬毛から夏毛へ生え替わりつつあるライチョウの夫婦を見ることができます。

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 2000年5月に大日岳で積雪調査をした際、厚く積もった雪の下から出てきたハイマツの「香り」に誘われて、ライチョウが近くまでやってきたのを思い出します。雪解けにはまだ間があるこの時期、時ならぬご馳走にありついたあのライチョウはびっくりしたことだと思います。


 冬山では厚い雪の下に覆われてしまうハイマツはなんと、不幸な松であるかと思っていたのですが、あながちそうとも言えないのでハイマツについて調べてみたことを今回、お話ししたいと思います。


 登山でハイマツが出てくる前にはダケカンバが生えており、時にはシラビソなどと混ざっています。ハイマツが優勢な高山帯に生えている背丈のあるダケカンバやシラビソは、強い風にいたぶられてまさに風雪に耐えているといった風情です。ところが、ハイマツときたら登山道で傷んだ部分以外は元気一杯であることが多いのです。


 日本アルプスの2500mより上は緯度の上では、森林限界にならない低い海抜なのですが、9/13のコラムで書いたように大変強い風が吹き付ける地理的要因で背の低い植物しか生えない高山帯となっています。
植物は冬の寒さと強風の中では、細胞は破壊され、土壌が凍ることで地中の根は切断されて枯れてしまいます。特に強い風は「凍結乾燥」同様に圧倒的なダメージを生物に与えてしまうのです。

 ところがこのような厳しい環境でハイマツがこのように優勢でいられるのは、背が低く、葉は密に生え、しなやかな幹は雪の圧力に負けることがないからです。

 冬山登山で雪洞で夜を過ごすようなものです。雪にはたくさんの空気が含まれ、この環境では優秀な断熱材なのです。又、生き物に必須の水分が多く、凍ることなく湿度100%で乾燥しません。

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 ハイマツを良く見ると低い所からいくつも枝分かれしていています。園芸に興味のある方ならわかると思いますが、押さえつけられ地面に接した枝から、新に根が生えて増殖さえしてしまうのです。種だけの繁殖ではないしたたかさを持っているのですね。


 以前、雪の少ない年に本来雪の下になるはずのハイマツの群落が、大規模に赤く枯れていたことがありました。当時は、その原因が酸性雨湾岸戦争クウェートの原油火災かと思っていましたが、実は雪の保護がなく、寒風にさらされたからというのが本当らしいです。

 種の散布に関して、ハイマツはライチョウやホシガラスと上手く助けあっているようです。
 ハイマツの種は当然、松ぼっくりの中に入っているのですが、普通の松のように、高い位置から羽の付いた種を風任せに飛ばすのではありません。ホシガラスやライチョウに食べられ、食い散らかされた、残った種が、岩の間のわずかな隙間にある土壌で芽吹くのを期待しているようなのです。人間のように強欲に食べ尽すのではなく、適度に食べ残すのが自然なのでしょうか。

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 ハイマツが生える斜面は写真にあるようにまだらにパッチワークのようになることが多いです。細かな砂地には高山植物が生えるお花畑にもなる場所でもあるのですが、一方、砂の動きが早く、植生が貧弱となることが多いのです。砂礫に生えるコマクサ群落には適応できない他の植物を見つけることはできません。
 一方、ハイマツが生える岩塊地帯は、雨・雪・風・低温に因る風化に抵抗力が高いので、地盤が安定しているのです。栄養価の乏しい岩混じりの土壌にはほかの植物が入り込めないのです。普通のアカマツもヤセ地に生えていますね。

 ライチョウやホシガラスはハイマツの実ばかり食べているわけではないと思いますが、今度アルプスに登るときには、ハイマツや高山植物と関連付けて観察してみてはいかがでしょうか。

登山研修所友の会には役立つ情報がたくさんあります。

加藤ガイドのHPには、自然、花、地質、鉱物などを載せています。