好日山荘 ガイドコラム

好日山荘契約ガイドによる山のコラム

話題の富士山、足下を見てみれば

富士山に関する客観的な事実としては、火口の一番高い場所である「剣ケ峰が3776m」であること、火山であること、があげられるでしょうか。
もっとも最近噴火したのは1707年(宝永4年)で、富士宮口のある南斜面にある「宝永火口」はその時にできたものです。たった300年前なのが不思議です。
それ以前は平安時代の延暦19年~21年(800~802年)(延暦大噴火)、貞観6年(864年)(貞観噴火)がありました。
10万年前から始まった富士山生成の歴史の中で、縄文時代後期の3500年前に現在程度の高さに、弥生時代の半ばの2200年前に大規模な噴火があったようです。
静かにしてくれているのは江戸時代の噴火からの300年はたった0.3%の期間なのですね。地学的なスケールでは立派な「火山」なのだそうです。

先日、久しぶりに富士山を歩きましたが、他の山岳地帯に較べ、植生が単調で、特に6合目より上は限られた植物しか生えていませんでした。
そこで、植生に関して少し調べて見ました。なぜ、富士山に可憐なお花畑がないのか、その理由は富士山が新しい火山であるからだとわかりました。

夜、河口湖畔から8秒開放で撮った富士山です。

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火山溶岩の堆積物です。

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水準器を使いました。9合目の傾斜はこの位です。

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富士山に於いて、動植物が死に絶えてしまうような大規模な噴火が終わったころには、氷河期は終了していました。
つまり、北アルプスなどで私たちが目にする「極地性植物」の分布の帯が既に消えてしまっていたわけです。
数々の噴火を耐えながら、1000年の単位の年月をかけて、風や鳥の糞などに運ばれるなどして植物が侵入していますが、植物や動物の種類はまだ未発達です。
海抜約2300mから上は高山帯と呼ばれるエリアになり、火山草原・火山荒原という植生が見られます。海抜約2500mから上は、地衣類やコケ類のみ生育可能な、たいへん厳しい環境です。
代表的な富士山の高山植物は、養分など何もないような厳しい環境に一番に侵入して定着する、先駆植物(パイオニア)であるオンタデ、イワツメクサ、イワスゲなどです。
とくにオンタデなどは土壌凍結・融解による砂礫の移動、低温、乾燥、夏の高温など、大変厳しい環境に適した特性を備えています。

タデ

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イワツメクサ

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最近の地球環境変化の影響を象徴する、記事を見つけました。それは「富士山の永久凍土」に関することです。かいつまんで書いてしまうと次の様な事でした。
 
[ 永久凍土とは、少なくとも2年間以上継続して凍結している地盤をいいます。日本では富士山や北海道・大雪山などで確認されています。
1970年に富士山に存在すると確認され、1976年夏の地温観測により3200メートル付近と推定されていた永久凍土の下限が、
2000年8月から1年間行われた地中温度連続観測で、約25年の間に標高差で約300mも山頂側に後退したことが分かりました。
2010年1月、富士山頂で永久凍土の減少が進んだ為、低温や強風、紫外線に曝されるためコケ類以外は繁殖が困難とされる場所に種子植物のタカネノガリヤス(イネ科)やイワツメクサナデシコ科)が確認されました。
永久凍土の分布域は、冬季の凍結と夏季の融解のバランスで決まるといわれています。1976年から1998年の間に富士山頂の年平均気温は0.8度、最高気温の平均も2.5度それぞれ上昇していたそうです。
永久凍土の縮小は冬の気温の上昇が関係しているとみられ、8月の平均気温は約0.2度の上昇にとどまっていたものの、1月は約3.0度、2月に約1.0度も上昇していて、冬季に凍らせる能力が低下したことが後退につながったとみられています。]

7月から8月までの凡そ2カ月の間に、30万人が登るといわれる富士山。
足もとにあるスカスカの黒い溶岩、赤い溶岩や所々にどっしりと埋まっている大きな玄武岩、そこに生えている植物に目を向けてみるのも良いことだと思います。

日本や世界の環境は変化し続けています。更に高山植物は微妙なバランスで維持される動的な環境下にあります。
その移り変わりは数千年という単位で変動してきましたが、人為的地球温暖化による激しい環境の変化は、貴重な動植物にどんな影響をもたらし、私たちの生活にどんな影響を与えるのでしょうか。

都会にいてはわからない自然の大きさを知るきっかけが富士登山であっても良いのかもしれません。

登山研修所友の会には役立つ情報がたくさんあります。

加藤ガイドのHPには、自然、花、地質、鉱物などを載せています。