好日山荘 ガイドコラム

好日山荘契約ガイドによる山のコラム

寒い環境がなぜ辛いのでしょうか。

人間は恒温動物なので、周囲の気温に関わらず一定の体温を保とうとします。人間の体は、暖かく重要な臓器が詰まった中心部をそれよりも温度の低い筋肉や脂肪や皮膚で覆うという構造になっています。中心部とはつまり、頭蓋骨に覆われた頭脳や、胸と腹部の生命維持に不可欠な器官のことです。皮膚、脂肪、筋肉など実質的に外側の世界との緩衝地帯の役を果たし、急激な温度の変化から体内の器官を守っているわけです。

極端な低温や高温の環境でも、体内の重要器官の温度は36.8度から2度程度の変化に収まるよう調整しているわけです。皮膚など表面に近い部位の温度は、それより数度低いので、もし、より正確な体温を測定するのであれば、口の中、下顎と舌裏に間で測定するか、直腸温を測らなくてはいけません。体内の重要器官の温度が42.7度以上か、28.8度以下になったら、そうなってしまったならば死を覚悟しなければなりません。

私たちは簡単には死にません。外の環境変化に応じて、あらゆる手段を駆使して生き残ろうとするのですが、実際にはどうなのでしょうか?
寒いある昼休みにダウンジャケットを着て中華料理屋に行きました。手足は冷たかったのですが、暖かいマーボ豆腐を食べているうちに汗が出てきました。また、ある日外気温はマイナス15度、じっとしていても寒いのですが、意識して手足指を動かしたり、歩くことで辛くなくなりました。人間の体は動き回るにせよ、鳥肌を立てて震えるにせよ、エネルギーと熱を発生するには燃料を燃やさなくてはいけません。

ブルブルと震えがくるのは、発生させる熱より失われる熱のほうが多いことを体が教えようとしているともいえるのです。ブルブルと震えるためには体内エネルギーが必要なのです。登山をしていてこのような状態になった時、適切な対応がとれるかどうかが生死の分かれ目かもしれません。

ところで、私たちの体のどこにその能力が備わっているのでしょうか。実は人間の頭の付け根にはサーモスタットがあると言われています。小さな神経組織で、体温を一定に保つに体のすべての部分を監視し、熱の発生と消耗をコントロールしているのです。

低体温症を起こすと、そのサーモスタットが反応します。熱の収支でいうと赤字ですから、熱をできるだけ体内の重要器官に集中するように命令するのです。するとまず、熱の供給が低下した手足からこわばり始めます。体内の重要器官の温度が下がるにつれ、体はついに、知性の源である脳頭からも熱を引き出すようになるのです。。そうなると頭脳が必要とする酸素と糖分が得られなり、頭脳にいくべき糖分が生きるための熱の発生に使われてしまうのです。頭脳の働きが弱まり、震えが止まって、理性的でない行動をとるようになります。

低体温症が最初に引き起こすのは意志の力を弱めることなのです。本人はそれほど気がつかない。震えが止まると不安も感じなくなる。死にかけているのにどうでも良くなるのです。この段階に達すると、体はもはや自らを温める能力を失っているので、寝袋に入ったとしても、体温は下がり続けるのです。脈拍は不規則になり、眠気に襲われて意識が混濁しやがて意識を失うことになります。

このような段階になってしまっては、最後の望みは、外部から熱をもらうことしかありません。火、温かい飲み物、他人の体から直接熱供給を受けるしかないのです。

雪を食べてはいけないと良く言われていますが、なぜなのでしょうか。雪山において、今まで述べてきたようなエネルギーが不足して、水分が足りなくなった状態のとき、雪を食べるということは、口の中で溶けるときに貴重な体温を奪うだけでなく、内側から体を冷やし、生命維持に不可欠な器官の温度を下げてしまう事になるのです。

生体として必要な水分を得るのが重要か、熱源を得るのが重要か、どちらも重要だと思いますが、正しい判断を下す「脳」を維持するのが最重要ではないかと思うのですがいかがでしょうか。

優れた登山用品ももちろん大切ですが、人間本来の能力を高める努力を怠らないようにしたいと思っています。

登山研修所友の会には役立つ情報がたくさんあります。

加藤ガイドのHPでは、キノコ、鉱物、水滴、自然、花、地質、鉱物などを載せています。